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カウンタードローン(C-UAS)機器導入チェックリスト

カウンタードローンに関する導入・選定・検討のお打ち合わせをする際に、ポイントとなる項目をチェックリストにまとめました。本記事ではカウンタードローンシステムの最新情報とともにチェックリストをご提供いたします。

急増するドローン脅威と社会的背景

近年、ドローンの技術は目覚ましい進歩を遂げ、物流、測量、インフラ点検、災害救助など、多岐にわたる分野での活用が期待されています。しかし、その一方で、ドローンの悪用によるテロ、犯罪、プライバシー侵害、事故などの脅威も深刻化しています。2015年の首相官邸ドローン落下事件を契機に、日本国内でもドローンに対するセキュリティ意識が急速に高まりました。

また、空港,原子力発電所,防衛施設など重要施設へのドローン侵入は、国家の安全保障、国民の生命・財産に甚大な被害をもたらす可能性があります。そのため、不審なドローンを早期に検知し、適切に対処するためのカウンタードローンシステムの導入は喫緊の課題となっています。特に官公庁管轄施設においては、民間施設とは異なる厳格な法規制や運用上の制約が存在するため、これらを考慮した上で最適なシステムを選定・導入することが極めて重要です。

カウンタードローンシステムとは

レーダー・ジャマーを中心とした対策技術の概要

カウンタードローンシステム(C-UAS: Counter-Unmanned Aerial Systems)とは、ドローンによる不正侵入や脅威を検知、追跡、識別し、無力化するための技術や装置の総称です。その中でも、レーダーとジャマーは、ドローン対策の主要な柱として多く導入が進められています。

レーダーシステム:ドローンの位置、速度、方向などを広範囲かつ高精度に検出し、追跡する技術です。昼夜を問わず、また悪天候下でも機能する点が強みです。

ジャマーシステム:操縦者とドローンの通信信号(操縦信号やGPS信号など)を妨害し、ドローンの飛行を制御不能にしたり、強制的に着陸させたりする技術です。操縦者を探すことなく、かつドローンに物理的な損傷を与えることなく無力化できる点が特徴です。

これらの技術は単独で使用されるだけでなく、複数のシステムを組み合わせて運用することで、より効果的なドローン対策を実現します。

必要となった背景と進化の経緯

カウンタードローンシステムが必要とされるようになった背景には、民生用ドローンの普及と性能向上があります。かつては軍事用途が主だったドローンが、低コストで高性能化したことで、一般にも広く利用されるようになりました。しかし、これにより、悪意を持った者によるテロ行為や、偶発的な事故のリスクも増大しました。

これに対応するため、各国でアンチドローン技術の研究開発が活発化し、2010年代半ばから実用的なシステムが導入され始めました。初期にはネット捕獲やレーザーによる破壊なども検討されましたが、二次被害のリスクや法規制の観点から、検知と通信妨害(ジャミング)を中心としたシステムが主流となっていきました。特に、AI技術の発展により、ドローンと鳥などの飛行物体を区別する精度が向上し、都市部の複雑な電波環境下での検知能力も高まっています。

レーダーによるドローン検知・追跡技術

レーダーの基本原理(小型無人機検知の特徴)

レーダー(Radio Detection and Ranging)は、電波を対象物に照射し、その反射波を受信することで、対象物の位置や速度、方向を測定する技術です。ドローン検知においては、以下の特徴があります。

小型無人機検知の課題:ドローンは、航空機に比べてサイズが小さく、速度も遅いため、一般的なレーダーでは検知が難しい場合があります。特にマルチコプター型ドローンはレーダーの電波を反射する断面積が小さく、ドップラー効果による周波数の変位も小さいため、高感度な信号処理技術が求められます。

ドップラー効果の活用:レーダーは、ドローンが発する微小な電波の反射を捉え、ドップラー効果を利用してその動きを検出します。これにより、小型で低速のドローンでも長距離から探知することが可能となります。

多様な周波数帯:レーダーには様々な周波数帯があり、それぞれ異なる特性を持っています。例えば、Kuバンドは長距離伝送と高精度な速度検知に優れる一方、雨天時の性能低下があります。Sバンドは気象条件に左右されにくい安定性があります。複数の周波数帯を組み合わせることで、ドローンの多様な飛行特性に対応できます。

レーダー技術と導入事例

カウンタードローンシステムに用いられるレーダーには、以下のような種類があります。

AESAレーダー(Active Electronically Scanned Array): アクティブ・フェーズドアレイレーダーとも呼ばれ、多数の送受信素子を並べ、電波のビームを電子的に走査することで、高速・高精度な検知・追跡が可能です。低空を飛行する小型ドローンを自然界の物体と区別するための特別なアルゴリズムを備えているものもあります。

RFセンサー: ドローンが発する制御信号や映像伝送信号などの電波を受信することで、ドローンの到来方向や高度を検知します。電波を発しないため、無線局申請や免許が不要な場合が多く、広範囲の監視に適しています。

カウンタードローンシステムの運用例

警備:大規模イベントや要人警護の際、不審なドローンが検知された場合、レーダーで追跡し、ジャマーで飛行を妨害するなどの措置が取られます。特に都市部では、二次被害のリスクを考慮し、ドローンを安全に着陸させる方向で対処されます。

防衛施設:広範囲にレーダーを配備し、侵入してくるドローンを早期に発見します。有事の際には、ジャマーだけでなく、物理的な迎撃手段も検討されます。

空港:空港周辺はドローンの飛行が厳しく制限されており、レーダーシステムやRFセンサーを組み合わせることで、航空機の離着陸に影響を及ぼす可能性のあるドローンを常時監視し、検知次第、速やかに対処します。

ドローンジャマーのメカニズムと効果

ジャミング技術の仕組みと種類

ドローンジャマーは、ドローンの正常な動作に必要な無線通信を妨害する装置です。主なジャミング技術には以下の種類があります。

RFジャミング:ドローンの操縦信号(プロポからの信号)や、ドローンがGPS衛星から受信する信号と同一周波数帯の電波を高出力で送信することで、本来の信号をマスク(遮断)し、ドローンを制御不能にします。これにより、ドローンは設定されたフェールセーフ機能(例えば、その場でのホバリング、離陸地点への自動帰還、強制着陸など)を発動します。

GNSSスプーフィング:ドローンに偽のGPS位置情報を送信し、ドローンが自身の位置を誤認させることで、混乱させたり、意図しない経路に誘導したりします。

ジャマー使用時のドローン挙動と成功事例

ジャミングを受けたドローンの挙動は、そのドローンのフェールセーフ機能やジャマーの性能によって異なります。一般的には、コントロール信号を失ったドローンはその場でホバリングし、バッテリー残量が減少すると離陸時に設定されたホームポイントへ自動的に帰還するか、その場で着陸します。

日本国外での事例

違法・無許可で飛行するドローンを無力化するために、銃型のドローン妨害器(ジャミングガン)が軍や治安当局で使用され、成果を上げています。これらのジャマーは、ドローンにダメージを与えず、安全に無力化できるというメリットがあります。

レーダー・ジャマー一体型システムの概要

近年では、ドローンの検知から無力化までを一貫して行う、レーダー・ジャマー一体型のカウンタードローンシステムが主流となっています。これらのシステムは、レーダーでドローンを早期に検知し、その位置や軌道を正確に追跡。その後、脅威度に応じてジャマーで通信を妨害し、無力化します。

要件整理と選定ポイント

考慮すべき基本要件

法的制約の遵守:電波法、小型無人機等飛行禁止法、航空法など、ドローンや電波利用に関する法規制を遵守する必要があります。特に、ジャマーの使用は電波法に抵触する可能性があるため、管轄機関との調整や、無線局免許の取得が必要となる場合があります。

検知範囲と精度:保護対象となる施設の規模や特性に応じて、適切な検知距離と精度を持つレーダーシステムを選定する必要があります。広範囲をカバーできる長距離レーダーと、近距離での高精度な追跡が可能な短・中距離レーダーの組み合わせも有効です。

運用環境への適応性:都市部の複雑な電波環境、悪天候、昼夜を問わない運用など、実際の運用環境に適応できるシステムであるかを確認する必要があります。

対処能力の多様性:検知・追跡だけでなく、ジャミング、スプーフィングなどドローンを無力化するための多様な対処手段を検討し、二次被害のリスクを最小限に抑えつつ、効果的な対応が可能なシステムを選ぶ必要があります。

システム連携と拡張性: 既存のセキュリティシステムや管制システムとの連携が可能であるか、また将来的な技術進化や脅威の変化に対応できる拡張性があるかも重要な検討ポイントです。

運用現場における設置・連携・訓練

カウンタードローンシステムの導入は、機材の設置だけでなく、運用体制の構築も重要です。

設置:レーダーやジャマーは、施設の特性や監視範囲に応じて、地上固定式、地上移動式(車載)、携帯型など、適切なプラットフォームを選定し設置します。特に地上固定式は、空港や重要エネルギー施設などで24時間体制の監視に貢献します。

連携:複数のセンサー(レーダー、RFセンサー、カメラなど)からの情報を統合し、一元的に監視・制御できるプラットフォームの導入が不可欠です。これにより、ドローンの検知から識別、対処までをシームレスに行うことができます。また、法執行機関や関係省庁との情報共有体制も構築する必要があります。

訓練:システムを効果的に運用するためには、オペレーターに対する十分な訓練が必須です。検知したドローンの種類や脅威度を正確に識別し、適切な対処方法を選択できるよう、実践的な訓練を繰り返し行う必要があります。

導入事例から見る選定ポイント

多層防御の重要性:単一の技術に依存するのではなく、レーダー、RFセンサー、カメラ、ジャマーなどの複数の技術を組み合わせた多層防御システムが効果的です。これにより、様々なタイプのドローン脅威に対応できます。

非破壊的対処の優先:特に人口密集地や重要施設周辺では、ドローンを撃墜したり破壊したりする物理的な対処ではなく、ジャミングやサイバーテイクオーバーによる非破壊的な無力化が重視されます。二次被害のリスクを最小限に抑えることが重要です。

迅速な展開と運用性:携帯型や可搬型システムは、イベント会場や災害現場など、迅速な展開が求められる場所での運用に適しています。東芝インフラシステムズの可搬型システムのように、短時間で設置・運用が可能な製品は、緊急時の対応力を高めます。

日本国内における導入・法規制と運用上の課題

現行法規とその運用現場への影響

日本におけるドローンの飛行は、主に「航空法」と「小型無人機等飛行禁止法」によって規制されています。

航空法:機体重量100g以上のドローンが対象となり、飛行禁止空域(空港周辺、150m以上の上空、人口集中地区など)や飛行方法(夜間飛行、目視外飛行、危険物輸送など)について定められています。これらの規制に違反した場合、罰金や懲役が科せられます。

小型無人機等飛行禁止法:国会議事堂、首相官邸、皇居、原子力発電所、防衛関係施設、空港などの重要施設とその周辺約300m上空でのドローン飛行を原則禁止しています。この法律に違反した場合も、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

電波法:ドローンの操縦やデータ伝送に電波を使用する場合、無線局の免許が必要となる場合があります。特にジャマーなどの妨害電波を発する機器は、電波法に抵触する可能性が高く、運用には厳格な許可と管理が必要です。民間でのジャマー使用は、他の無線通信に影響を及ぼす恐れがあるため、現状では現実的ではないとされています。

導入に向けたチェックリスト

  • ドローン脅威の種類とリスクの明確化
  • 保護対象施設の特性と監視範囲の特定
  • 航空法、小型無人機等飛行禁止法、電波法など法規制の確認と遵守
  • システムに求められる検知距離、精度、対処能力の要件定義
  • レーダーとジャミング技術を中心とした複数の対策技術の組み合わせ検討
  • 非破壊的対処の優先順位付けと、二次被害リスクの評価
  • 都市部、悪天候、昼夜など運用環境への適応性確認
  • 既存セキュリティシステムとの連携可能性
  • 将来の技術進化に対応できる拡張性の確保
  • オペレーターへの教育・訓練プログラムの計画
  • 関係機関との連携体制の構築
  • 導入・運用コストの総合的な評価
  • 各メーカー・製品の比較検討とデモンストレーション実施

カウンタードローンシステムの導入は、組織のニーズと状況に合わせた最適なシステム選定・運用を検討することが重要です。ぜひお気軽にお問い合わせください。